2023年1月25日 更新

すべてを網羅してる人はいないから、事例を作っていくしかない。新星ギャルバースの草野絵美が語る NFTのイマとこれから

2022年4月に登場するや否や NFT マーケットプレイス OpenSea で取引高世界一位を記録した『Shinsei Galverse(新星ギャルバース)』。仕掛け人の1人は、アーティストの草野絵美さん。1980 年代のカルチャーを音楽で表現する 3 人組のユニット Satellite Young としてのアーティストの顔、大きな話題を集めた小学生の NFT アーティスト Zombie Zoo Keeper くんの母親としての顔など、多彩な色を放っています。そんな草野さんは今何を考えているのか、お伺いしてみました。

出会いの奇跡が重なって生まれた『新星ギャルバース(Shinsei Galverse)』

――『新星ギャルバース (Shinsei Galverse)』 や、草野さんの息子さんが手掛ける『Zombie Zoo』など、NFT 業界で話題を起こすプロジェクトに次々と関わられています。特に『新星ギャルバース』は世界的にも話題となりましたが、NFT に取り組むきっかけは何だったのでしょうか?

草野 もともとは、何となく新しい技術を触ってみよう。そのくらいのテンションでした。去年の2月ごろ、音声配信 SNS【Clubhouse】が流行ってた時期がありますよね。その時にクリプト界隈とアーティストたちが結構議論されていたんです。知り合いのアーティストからも、「今デジタルでコンテンツを作っていなら、NFT はを勉強した方がいいよ」という話をされていて、自分の中に取り入れる意味でリリースしてみたのが『Love is IPO』です。

Love is IPO:草野さん主催の音楽ユニット Satellite Young のソロプロジェクト Emi Satellite から 2021年4月にリリース。オーディオビジュアルとリミックス音源の所有権をNFT化した。

草野 ただ、『Love is IPO』は一点ものの NFT だったので、NFT コミュニティがどう動いているのか、数千体のコレクションがどういう動きがするのかまでは分からなかったんです。出産して間もない時期でもあったので、創作活動に専念するのも難しくって、でも何とか頑張ってついていこうとしていましたね。転機になったのは、去年の8月に息子が始めた『Zombie Zoo』です。夏休みの自由研究としてはじめたのですが、二次流通で180万円というびっくりする値段で買っていただいたり(二次流通のため、Zombie Zoo のところに入ったのは 2.5%の額)、NFT アートの海外コミュニティにまで届いたり、色々な奇跡が起きたんです。私自身に NFT の知識が蓄積されたのはもちろんですが、NFT に詳しい友達も世界中に出来ました。そこから、Emi Satellite の『Glass Ceiling』で MV を手掛けてくれた大平彩華と、『Zombie Zoo』のホルダーだったデヴィン、その友達のジャックの四人でスタートさせたのが『新星ギャルバース』です。

Zombie Zoo プロジェクト:草野さんの息子である Zombie Zoo Keeper くんが手掛けるpixel アートの NFT。

大平彩華さんとタッグを組んだ『Glass Ceiling』

NFT は推し活でいい

――『Shinsei Galverse』は 8888体という大規模のコレクションで現在は二次流通でやり取りされている状況ですが、そこまで受け入れられた要因は何だったのでしょうか。NFTでも受けるもの、受けないものが明確にあるかと思っています。

草野 どんなに作品が良くても、ちゃんと文脈を作り伝える作業をしないと売れないんです。これはリアルでも同じことで、新しい商品が出来れば営業に行くし、宣伝もしますよね。数千体のコレクションを売ろうとするなら、世界に伝わる文脈づくり、そして正しいコミュニティーに向けての宣伝活動は欠かせません。リリース前の2ヶ月半ぐらいは、『Shinsei Galverse』プロジェクトの内容とそこに込めた想いを丁寧に説明していきました。日本のアニメインスパイアの NFT 自体は、実は数多くあるんです。でも、日本人が一切関わってないプロジェクトばかりなんですよ。そんな中で、日本人の私たちが愛する世界観の魅力をちゃんと伝えられたというのは、大きかったんじゃないかと思います。

――『Shinsei Galverse』のホルダーは日本の方よりも英語圏の海外が多いとお聞きしていますが、日本と海外の NFT への熱量をどう考えていらっしゃいますか?

草野 日本の人は割と NFT を遠巻きに見つつも、アンチ NFT みたいな人が欧米に比較すると少なくて、その点ではすごくやりやすいんです。私個人としては、日本人って NFT に親しみやすいんじゃないかなって思っているんです。小さなころから様々なコンテンツに触れてきていますし、トレーディングカード文化も根づいています。LINEでスタンプ買ったり、クラウドファンディングでクリエイター支援をしたことがある方もいると思います。「デジタル上でのコンテンツへの対価を支払う」という点では、NFT と共通点があります。その延長線上で考えてもらったら、入りやすいと思いますね。

――NFT=投機というイメージも強いですが、そうではなく、趣味の一環としてくらいに考えてしまっていいんですね。

草野 投機目的の方もいらっしゃいますけど、NFT をトレードするのは相当ですし、資産的な流動性で言えば、NFT より、メジャーな株式など手堅い金融資産はもっと他にあります。それよりもむしろ、推し活のように考えて欲しいです。NFT を購入して作家さんを応援していく内に、作家さん自身と仲良くなることも出来ると思いますし、同じ作品を好きな人たちで繋がれる。手放してまた新たに応援したいアートを見つけることもできます。

――作り手の目線からはどうでしょうか?

草野 NFTが気になっているものの、まだ挑戦していない人が多い印象です。まずは、気になる作品から買ってみたり、売れなくてもとりあえず、ミントしてみるという精神が大事だと思います。また、NFTアートはアーティストにとって、クラウドファンディングするツールになり得るものなんです。私たちはアニメという表現手法を選びましたが、映画やゲームを実現するために使ってもいい。作り手側も買う側も、ぜひ、楽しんで参加して欲しいですね。

「やりたいこと」のストックをたくさん用意しておくのが、創作活動の源泉

――NFTからアニメを作る試みは世界的に見ても初めてかと思うのですが、新しい発想を生み出すにあたって心がけていることはありますか? 2人のお子様を育ててもいらっしゃるので、時間のやりくりも大切ですよね。

草野 私、「やりたいことリスト」に普段からやりたいことをストックしているんです。そのリストの中に、「アニメを作りたい!」があったんですね。大平彩華とパンデミックの最中にリモートでお茶をしながら、ストーリーやキャラクターを一緒にとめどなく話していたんですが、具体的なプランは何もない。そんな中で、なんとかアウトプットしてみたいなと思って作ったのが『Glass Ceiling』。でも、『Glass Ceiling』は短尺のMVなので、やっぱり長編が作りたいなと思っていたんですよね。

――そこから『Zombie Zoo』プロジェクトをきっかけに、「NFTでアニメを作る」方向へと進んでいったわけですね。

草野 そう、だから大事なのは「やりたいこと」のストックをたくさん持っておくこと。そうすれば何かチャンスが来た時に、「これとこれを組み合わせられるぞ」って考えられるじゃないですか。ストックを作るためにはインプットが大事なんですけど、私が愛用しているのはオーディオブックです。ただ、ゆっくり聞く時間がないので、2倍速とか 2.5倍速とかで聞きながら散歩しています。ジャンルはエッセイから小説まで幅広く、週に1冊以上は読むようにしていますね。

――Satellite Young を始められた際はどのようなものがベースになったのでしょうか?Satellite Young も『新星ギャルバース』と同じように昭和レトロな空気感がありますよね。

草野 自分が生まれる前の世界への憧れがあるんですよね。昭和アイドルが好きだし、特撮もアニメも好き。私は勉強も運動も得意じゃなかったし、変わり者と思われていたし、なんかフィットしないなという感覚がずっとあったんです。そんな子どものころに見たもの(昭和アイドルや特撮・アニメ)が原風景になって、自分を支えてくれていたような気がします。思い返してみれば、インターネットネイティブとして、若者の価値観がモノから情報へ移り変わった瞬間に多感な時期を過ごしているので、マスメディアが影響力をもってた時期に憧れていたのかもしれません。Satellite Young の前は学生カメラマンをやってみたり、クリエイターのポートフォリオアプリを作ってみたり、アート活動とは少し距離があったんですけど。

――そこからアーティスト活動を始めるきっかけは何だったんですか?

草野 すんなりアーティスト活動を始めなかったのは、両親がアーティストだったから。同じ道を選びたくなかったからなんですね。でも、自分で表現したいという想いがくすぶり続けていて、そんな学生の頃に出会ったのがスプツニ子!さん。その時は昭和アイドルを再現したいなと思っていて、そのことを話してみたら「自分で作っちゃいなよ。音楽とか楽譜が読めないなら、出来る人と組めばいいんだよ」って言ってくれて。自分のやりたいことが分からない、あるけど少しモヤモヤしている人には、とにかく人と会って取材することをおススメしたいです。誰かと話していくうちに見つけられるものがあると思うんです。

※ スプツニ子!さんは現代美術家。テクノロジーと人間社会を題材にした映像作品を発表している。

NFT の真価はこれから形作られていく

――気づけば少しずつ一般層も Web3.0に触れつつあると思うのですが、草野さんはこうした状況をどう見ていらっしゃいますか?

草野 正直に言ってしまうと、Web3.0は動きが目まぐるしくって、今日話した内容が来週再来週には変わるかもしれないんです。こんなDAOができたらしいよとか、あの有名な NFTプロジェクトを解散したらしいよとか。だからすべてを網羅するのは難しい。その中で私がアーティスト当事者として自分が受けたラッキーな恩恵や見てきた新しいコミュニティについては話せますが、まだまだ私も勉強すべきことが多いです。このツールをどうやって活用していくかさまざまな業種の人が模索しながら創りあげていく必要があるので、出来るだけ多様なプレーヤーに参入してきて欲しいですね。ファッションアイテムとして新しい可能性があるとか、NFT が学生証になるとか、そういう実用事例をたくさん作っていかないと、価値が見出しづらい。私もこの新しいテクノロジーに自分の作品を発信していけたらなぁと思います!

――ありがとうございます。今後の Web3.0の変化で草野さんがどんな作品を生み出すのか楽しみにしています。最後に、ご自分を「色」で表現するとしたら何色なのか、お聞かせいただけますか?

草野 赤、青、緑でありたいです。液晶ディスプレイのようにこの3色を巧みに重ね合わせて、その時の気分によって変えてみて、さまざまな固定観念を壊していきたいです。ママなのに髪が青い。起業家でありアーティスト、肩書きもその場で変えてみて、いろんな才能と一緒に仕事をして、人々を驚かせたいです!

PROFILE
草野 絵美(くさの えみ)
株式会社 Fictionera 代表/新星ギャルバース共同創業者・クリエイティブディレクター。東京生まれ。慶應義塾大学SFC 環境情報学部卒業。2021年、当時8歳の長男の NFTアートプロジェクト「Zombie Zoo」が世界中のアートコレクターたちの目にとまり、最高 4ETH(160 万円相当)で取引される。2022年、自身がクリエイティブディレクションを手がける NFT プロジェクト「ShinseiGalverse」を開始。同年4月のリリースでは世界最大の NFT マーケットプレイス Opensea の24時間売上ランキングで世界1位を記録した。

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